このアルバムの3つのポイント
- ラトルが首席指揮者として就任した2002年のベルリンフィルとのライヴ録音
- 巧みなドライヴによるマーラー
- ドイツのエコー賞とオランダのエジソン賞を受賞!
2002年のシーズンからベルリンフィルの首席指揮者に就任したサイモン・ラトル
2002年のシーズンからベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任したサー・サイモン・ラトル。ベルリンフィルのシーズンは8月末か9月から開始されるのですが、2002年は5月1日のヨーロッパ・コンサート@シチリアではまだ首席指揮者だったクラウディオ・アバドがタクトを取り、6月23日のベルリン・ヴァルトビューネでの野外コンサートはマリス・ヤンソンスが指揮。
一方でラトルはこちらの記事で紹介しましたが、2002年4月から5月にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮してライヴでベートーヴェンの交響曲全集を完成させています。21世紀初頭のベートーヴェンの全集ということで、アバド/ベルリンフィル盤とラトル/ウィーンフィル盤が出揃ったのですが、どちらも賛否両論でした。
そして9月からラトルがベルリンフィルの首席指揮者に就任したわけですが、本日紹介するマーラーの交響曲第5番は9月上旬のライヴ録音。まさにキックオフとなった録音ですが、かつてゲオルグ・ショルティがシカゴ交響楽団の音楽監督に就任して最初の録音(1970年)がマーラーの交響曲第5番。この後の黄金時代を告げる名演で、私の中では縁起が良い曲です。
この曲は名盤も多くて、ショルティ/シカゴ響には1990年のライヴでの再録音もありますし、リッカルド・シャイー/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の映像での演奏、アバド/ルツェルン祝祭管弦楽団の映像での演奏、またアダージェットならヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリンフィルの1973年の録音もありますね。
その中でラトル/ベルリンフィルもなかなか良いです。日米英では受賞していませんが、本家ドイツのエコー賞とオランダのエジソン賞を獲得したアルバムなので専門家からの評価も高かったです。
格安で販売されているラトルのマーラーの交響曲全集
EMIレーベル (現ワーナーレーベル)は輸入盤CDが格安で売られているのはクラシック音楽ファンのよく知るところですが、2000年代はラトルもEMIに所属していました。私はラトルのマーラーの交響曲全集を2007年発売のCD BOXで持っていますが、当時14枚入りのCDで2千円ぐらいだったのを覚えています。こんなに安いなら外れだったとしてもまぁいいか、という気軽な感じで買ったものでした。交響曲は第1番〜第9番と第10番のクック補筆版による演奏と、さらに1984年の「嘆きの歌」と1995年の「大地の歌」の録音が収録されていました。交響曲第10番はこちらの記事で紹介しましたが、補筆版による5楽章での演奏という学術的な珍しさもありますが、演奏自体の水準もかなり高くオススメです。
今はワーナーレーベルから2017年にリリースされた交響曲全集はCD12枚組になっていて「嘆きの歌」と「大地の歌」が外されてしまいました。さらに、交響曲第9番は旧盤はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団との個性的な1993年のライヴ録音でしたが、新盤ではベルリンフィルとの2007年の録音に差し替わっています。それでも値段が2千円ほどなのでだいぶお得ですが。
首席指揮者に就任した直後の録音
マーラーの交響曲第5番は2002年9月のライヴ録音でラトルとベルリンフィルの時代を告げる演奏。冒頭のトランペットのソロから滑らかで安定したベルリンフィルの技量が伺えます。続くトゥッティもとても自然で誇張しすぎずにストレートにクライマックスを築きます。pp (ピアニッシモ)の主要主題ではうっとりするような美しさで優しく奏でられます。第1トリオもラトルにしてはオーソドックス。ベルリンフィルから過不足なくハーモニーを引き出しています。ラトルはコミュニケーション重視の指揮者と言われていますが、これを聴くと指揮者もオーケストラも納得して演奏しているような感じがします。
第2楽章や第3楽章だとラトルらしさが出てきて、テンポ・ルバートでメリハリを付けていきます。第4楽章も行き過ぎない程度の濃さのアダージェット。第5楽章は圧巻のクライマックスで高らかに締(し)めます。
まとめ
ラトル&ベルリンフィルの新時代を告げるマーラーの交響曲第5番。クセも過不足も無く、聴きやすい演奏でもあります。
オススメ度
指揮:サー・サイモン・ラトル
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:2002年9月7-10日, ベルリン・フィルハーモニー(ライヴ)
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試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
ドイツのエコー賞の2003年の「Conductor of the Year」及び2003年のオランダのエジソン賞の管弦楽曲部門を受賞。
コメント数:1
個人的にはこの曲は若いころに最初に買ったショルティの演奏のイメージが刷り込まれています。こちらのラトルの演奏からは、もう少し複雑な印象を受けました。例えば 1楽章、2楽章の葬送行進曲は、粛々といくのではなく、まだ心の傷がいえていない状態で、弱々しく、立ち止まりながら進んでいく感じでした。最終楽章は、クライマックスに向けて綿密に計算がされていると感じました。