5種類あるカール・ベームが指揮した第九のレコーディング
オーストリア出身で、20世紀を代表する指揮者の一人、カール・ベーム。ドイツ=オーストリア音楽を得意とし、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、ブルックナー、ブラームスなどの作曲家に定評がありました。
キャリアの長さの割にはベームのレコーディングはそこまで多くは無いのですが、ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」(通称『第九』)は、正規録音が3種類、ライヴ音源によるレコーディングも2種類、合計5種類あります。
レコードショップやAmazonのレビューを見ても、全てを聴いた方が書いているとは限らないので、どれが一番オススメなのかが分からず、結局私は全て購入して自分の耳で聴いてみたのですが、壮年期から最晩年の演奏、そしてライヴ録音とセッション録音では「同じベームが指揮しているの?」と思うぐらいに違いがありました。
5種類の第九を聴き比べた結果、私の中では1963年のバイロイト音楽祭でのライヴ録音が最も衝撃を受けました。セッション録音には感じなかった熱気や激しさがこのバイロイトでのライヴ演奏にはこもっています。そして、セッション録音では1970年のものが好みです。客観的に作品を演奏するかのような淡々とした感じもありますが、当時にしか無いウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の美音を活かしきった演奏だと思います。
それでは録音順に紹介していきましょう。
ウィーン交響楽団(1957年)
ウィーン響との高い集中力
1957年6月のウィーンでのセッション録音。モノラル録音で音質はイマイチですが、ベームがウィーン交響楽団を指揮して溢れる熱気を感じる演奏です。第1楽章も2楽章も厳かで厳しい表情を見せますが、第3楽章になると打って変わって慈愛に満ちた優しさに変わります。第4楽章はオーケストラの演奏で音質がイマイチで正直聴き辛いのですが、歌手独唱は比較的まともに聴こえます。iTunesで試聴可能。
バイロイト祝祭管弦楽団(1963年7月ライヴ録音)
バイロイト音楽祭での火花散る演奏
バイロイト音楽祭はヴァーグナーのオペラを演奏する場ですが、例外的にベートーヴェンの第九は演奏されてきました。1963年7月23日のバイロイト祝祭劇場ではベームがバイロイト祝祭管弦楽団を指揮して第九を演奏し、まるでヴィルヘルム・フルトヴェングラーを彷彿とさせるような激しい演奏をおこなっています。こちらもモノラル録音で音質はそこまで良くはないですが、それ以上に衝撃を受けたレコーディングでした。iTunesで試聴可能。
ベルリン・ドイツ・オペラ(1963年11月ライヴ録音)
ベーム初来日でのベルリン・ドイツ・オペラとの演奏
1963年の10月から11月に、ベームはベルリン・ドイツ・オペラと初となる来日公演に訪れ、東京の日生劇場のこけら落とし演奏会を開きました。モーツァルトの『フィガロの結婚』とベートーヴェンの『フィデリオ』を上演する合間に一度だけ第九の演奏会もおこなっています。そのライヴ録音がキングインターナショナルからリリースされていますが、当時最高の歌手陣が勢揃いした第4楽章は圧巻ですバイロイト盤に比べると音質は良いのですが、スッキリとした美音での流麗な演奏になっています。ただ、金管がイマイチなのが玉に瑕です。試聴は特に無し。
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1970年)
レコード・アカデミー賞受賞!最もオーソドックスなウィーンフィルの美音
1970年から72年にかけてベームはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とベートーヴェンの交響曲全集を録音します。その中の第九は1970年4月のジンメリンガーホフでのセッション録音。第1楽章や第2楽章ではトランペットを少し強調していますが、ウィーンの豊かな響きで演奏されていきます。聴きどころは第3楽章でこれほどまで美しい演奏は他に聴いたことがありません。第4楽章も声楽や合唱も申し分ないです。日本のレコードアカデミー賞「交響曲部門」を受賞した名盤です。iTunesで試聴可能。
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1980年)
ゆったりとした長大な演奏、ウィーンフィルとの再録音
最晩年のベームがウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と再録音した第九。トータル79分2秒という遅い演奏で、テンポのあまりの遅さゆえにファーストチョイスには選びづらいのですが、聴き比べすると味わい深い演奏だと感じます。テノールのプラシド・ドミンゴも魅力的。iTunesで試聴可能。
まとめ
カール・ベームが5回録音した第九についてそれぞれの感想をざっとまとめました。これから聴き比べをする方のお役に立てれば光栄です。
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