このアルバムの3つのポイント
- ショルティ唯一の「悲愴」の録音
- 引き締まった辛口なテイスト
- 飲み込まれそうなドラマティックな渦
ショルティ唯一の「悲愴」
サー・ゲオルグ・ショルティは幅広いレパートリーを誇っていましたが、チャイコフスキーの交響曲についてはパリ音楽院管弦楽団と第2番と第5番(1956年5月)、そしてシカゴ交響楽団と第4番(1984年5月)、第5番(1975年5月、1987年9月)、第6番(1976年5月)があるぐらいです。
後期交響曲と言われる第4番から第6番は演奏頻度も多いのですが、意外にもショルティは第4番と第6番は1回しか録音しませんでした。その唯一の「悲愴」を本日は紹介します。
こちらの記事で紹介したようにショルティ&シカゴ響と同じタイミングの1976年5月にヘルベルト・フォン・カラヤンが自身6度目となる「悲愴」の録音をベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮しておこなっています。特にアニバーサリー・イヤーでもないので、全くの偶然でしょうか。
1976年5月といえば、ショルティ&シカゴ響は以前紹介したモーリス・ラヴェルの「ボレロ」、クロード・ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」、交響詩「海」も録音していますが、そちらがシカゴ・オーケストラ・ホールでの録音だったのに、この「悲愴」の録音場所はシカゴ・メディナ・テンプルになっています。寺院ですが音響が良いのでシカゴ響がよくレコーディングに使っていた場所ですが、オーケストラ・ホールに比べると音が凝縮するような感じがします。
引き締まって辛口のテイスト
ショルティとシカゴ響の「悲愴」は一言でいうと、辛口で引き締まっています。同じくメディナ・テンプルで数年後に録音されたヨハネス・ブラームスの交響曲全集や「ドイツ・レクイエム」でもそうでしたが、ロマン派の音楽でもショルティが指揮するとダイナミックさとシャープな演奏になります。もう少し甘美な響きを求める方は先程紹介したカラヤン&ベルリンフィルや、マリス・ヤンソンス指揮バイエルン放送交響楽団(2004年)あたりを聴いたほうが良いかもしれません。
ただ、ショルティとシカゴ響ならではの「悲愴」でしょう。第1楽章の冒頭、コントラバスが奏でるかすかな響きにファゴットの不気味な旋律が加わるとゾクッとしましたし、ロマンに溺れないヴァイオリンの引き締まってキビキビとした演奏もシカゴ響らしいです。そして最高潮を迎えるトラック1の10:07あたりではシカゴ響の持ち味である金管も炸裂し、すさまじい渦に飲み込まれそうになります。
第2楽章は一転してチェロの旋律が優雅ですし、冒頭のリピートが終わってからヴァイオリンがうっとりとしするようなメロディを奏でます。第3楽章はリズムに厳格なショルティらしく、キビキビと進みます。シカゴ響の名技が光ります。そして第4楽章は美しいのですが、耽美的になりすぎずシンフォニックに描いていきます。クライマックスに達したとき(トラック4の3:58あたり)のオーケストラの厚みがすごいです。そしてフィナーレに向かって音が消えていきますが、低弦のチェロとコントラバスだけが静かに静かに消えていきます。
まとめ
ショルティ唯一のチャイコフスキーの「悲愴」。シカゴ響とのコンビならではの引き締まって辛口な演奏です。
オススメ度
指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
シカゴ交響楽団
録音:1976年5月, シカゴ・メディナ・テンプル
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廃盤のため無し。
試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
コメント数:1
「悲愴」だけど、楽しい演奏です。第3楽章の金管が気持ちいいです。個人的には、第1楽章とか、第4楽章で、もう少しためがあってもいいかなと思いますが、ファンなので、そういう前のめりなところも好ましく思えます。聞き違えているかもしれないですが、第1楽章の途中でクラリネットから音量が下がって、ファゴットにピアニッシシシシシモでパスを回すのですが、これを譜面通りにファゴットが演奏しているみたいです。これまで自分が聴いた演奏はすべてここは慣例に従ってバスクラリネットが代わりに吹いていました。